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無題A - 001

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いったい、どんな選択肢を選べば、この時間に辿り着くのだろう。

知り合いが入院している病院へと見舞いに出かけた僕は、気づけば見知らぬ少女に首を絞められて殺されかかっていた。

 
「…アンタが生きてるせいで、初音は…っ!」
 

髪を振り乱して必死の形相で首を絞められている。彼女の向こう側に白い天井。本当はもっと慌てなくちゃならないんだろうけれど、突然のこと過ぎて自分の置かれている状況がいまいち把握出来ていない。ただ、苦しくて、そんな思考さえ霞がかってきていて、ああ――、落ちる――…。

このまま僕はポカンと阿呆面下げながら死んでいくのだろうか。
それもいいかもしれない。どうせ大して意味のある人生ではなかったのだし。

そのとき僕は気持ちの悪い諦観の笑みでも浮かべていたのかもしれない。
僕の首を締めていた少女ははっとして手を緩めた。

 
「…どうして…あんたたちって…、どうして…っ!」
 

いったん緩められた手だったが、自分の言葉に激情して最後の一絞りをするがごとく、グっ、と手に力を込める少女。あ、ヤバいです、それ、マジで死ヌっ…!!

僕がギブアップする直前、突然に彼女の手が離れた。わっ、と彼女が両手で顔を覆って泣き出すのと、ゴツン、と病室の床に僕の頭が落ちた音が響いたのは同時だった。

 
「どうして…そんなヘラヘラしてるヤツが生きてられるのよ…? どうして真面目に生きてる子が、生きられないの…?」
 

視界をぐるぐると回る星たちを追い払いながら、そんな呟きが聞こえた気がした。

…彼女はもう大丈夫、かな…?
少し頭を起こして確認した。うん、敵、戦意喪失。
これで僕は安心して死ねる―。

病室に、ゴツンと二度目の音が響き、僕は気絶した。
 
 
 
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[タグ:物書き、有限時間]

無題 - 004

カバンからモバイル端末を取り出す。
これを忘れると大変なことになる。これを忘れて『ゲート』を不意にくぐってしまうと、元の世界に戻ることは絶望的になる。

『ゲート』は常に一対で現れた。たとえば、西暦2100年と2000年をつなぐゲートがある場所に現れたとすると、同時にどこかでは西暦2000年と2100年をつなぐゲートが現れる。この辺は世界が安定であるための必須条件らしいのだが、そのあたりは私にはよくわからない。

私が今することはその理論を学習することでなく、元の時間に戻るためのゲートを探すことだ。

端末は元居た時間につながっている。これは同時にこの世界のどこかに元の世界につながっているゲートが存在していることを示す。そのわずかな繋がりから情報を拾ってきてこの端末はその繋がっている場所を示してくれる。『時空の神隠し』以降、こういった事故を防ぐための必須アイテムとなってしまったもののひとつだ。

「えーと…。」

マップに表示させる。ここから…、6駅先の近くにある民家のようだった。

「げ、民家…。」

最悪だ。しかし一番近いのはそこだったし、ゲートの気が変わらないうちにさっさとくぐらなくては。
私はちょうど青になった交差点の信号を見やりながら、駅へと急ぎ足で向かった。
 
 
 
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[タグ:時間旅行、日常の向こう側、物書き]

無題 - 003

『ゲート』と、今の人は単に呼んでいる。

それは時間の歪みを持つ、特異点。
そのゲートを境にして、時間は非連続につながっている。

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今から15年ほど前、これら時間旅行する技術が確立された。
もともとは学術の研究向けの技術で、過去の歴史や史実をこの目で確かめたいという夢と時間旅行をいつかこの手でとの夢が合致した結果、生み出された。

生み出された、と言っても、多くの科学技術がそうであったように、半分以上偶然の産物だった。
膨大なエネルギーを閉空間に閉じ込めそれを十分小さなゲートに向けて一気に開放することで一時的に時空を歪ませる、という体当たりな技術ではあったが、この方法により時間軸を歪ませ、対象物を別の時間へ送ることが可能になった。


この時間旅行が可能になったという壮大なストーリーは、いまや全世界の小学校の教科書に載せられていると思われるほどの、人類の偉大なサクセスストーリーとして語り継がれる事になる。コンピュータ以来の発明だとされた。

だが、人類が時間を自由に操るにはまだ時間が早かったと、歴史家は見ている。

それが今回の事件につながる。全世界、この時空のありとあらゆる場所で大発生した『時空の神隠し』である。
 
 
 
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[タグ:物書き、時間旅行、日常の向こう側]

無題 - 002

昔、タイムマシンなんてものが考えられた。過去や未来を自由に行き来する、理想のマシン――。

それは人類の夢想した幻想だった。

それができればどんなに素晴らしいだろうと、人類は夢をふくらませた。

それは、この時代になってあるいは叶ったのかもしれない。
私はたった今、それをした。単にどこにでもある自動ドアをくぐって、それをしてしまった。

ただ、昔の人が想像したそれとは大きく異なるかもしれない。
私は、ただの20日間分の時を遡っていた。

「…あー、めんどくせぇ。」

恨めしげにその自動ドアを見やった。はぁ、とため息まで出る。
元の場所に戻らなければならない。のだが、あの自動ドアをもう一度くぐるだけでは元の時代に戻してくれる保証が無い。またまったく違う時間に飛ばされる可能性があった。保証されているのは、おそらく場所は元の場所だろうということだけだ。
 
 
 
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[タグ:物書き、日常の向こう側、時間旅行]