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ケースが回転! ふたつの顔を持つハミルトンの新作「ジャズマスター Face 2 Face III」が登場

ケースが回転! ふたつの顔を持つハミルトンの新作「ジャズマスター Face 2 Face III」が登場
  ハミルトンは、回転式ケースを持ち、表と裏、2面のダイアルを持つ「ジャズマスター Face 2 Face」の新作を発表した。第3作目となる「ジャズマスター Face 2 Face III」は、一方のダイヤルは時刻表示とクロノグラフ機能を、もう一方は計測用スケールを備えている。世界限定999本の展開だ。

  


  ハミルトンは、回転式ケースという構想を再解釈した限定モデル「ジャズマスター Face 2 Face III」を披露した。今回新たに「Face 2 Face」シリーズに加わった本作は、これまでよりも上品に仕上げたとうたっている。

  


  ジャズマスター Face 2 Faceの初作は2013年に発表され、ハミルトンが持つ個性を表現するモデルであった。2面のダイアルというコンセプトは、1本のスーパーコピー時計N級 代引きにふたつの異なる個性をもたらす。シリーズ3作目となる本作は、オーバル型ケースを持つ1・2作目とは異なるラウンドケースを採用し、アヴァンギャルドとクラシックをかけ合わせた新たなスタイルである。

  

  一方のダイアルは時刻表示とクロノグラフ機能を、もう一方のケースバック側には計測用スケールを備え、搭載するムーブメントを眺めることができる。メインダイヤルは複数の層で構成され、立体感を与える複雑な構造を取り入れている。

  外側のリングは時刻を表示し、3つのクロノグラフカウンターは時・分・秒の経過を計測。重なり合うサブダイヤルの下には日付表示のホイールを配置し、立体的な構造を生み出している。

  そしてケースを回転させると、もう一方のダイヤルが現れる。このケースバック側にはタキメータースケールとパルスメータースケールを備え、移動速度と心拍数を計測することができる。オープンワークが施されたダイアルからは、搭載するキャリバーH-41の動きを鑑賞できる。自動巻きのローターが勢いよく回転し躍動感を楽しめるのだ。

  


  また、大胆なコンセプトとクラシックなスタイルを融合した本作には、パティーヌ調のブラウンレザーストラップが合わせられた。ストラップの両面に施されたブルーのステッチが、印象的なコントラストとスポーティーな魅力を演出する。

  Contact info: ハミルトン/スウォッチ グループ ジャパン Tel.03-6254-7371

無題F

どろり、

と黒い粘液質の塊が流れ出る。

汚い、と思う一方、出さなければこんなものが体の中にたまっていたのだと思うと、ぞっとする。
一度では飽き足らず、どぷん、どぷんと溢れ出す。

それはココロの器。
気づかぬうちに、器にはゴミがたまり、見て見ぬふりをするうちに
いつのまにかヘドロになり、やがてそれはこうして怨念の塊にも似た、黒い塊となって溢れ出す。

私はそれを絞り出す。
こぶしを握り締め、カラダ全身を使い、最後の一滴に至るまで絞り出す。

そうして必死になって絞り出したそれは、何かを形作るではなく。
ただ重力のままに流れて溜まっていた。


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「ちょっとは落ち着いた?」

戻ると瑞樹は笑っていた。

瑞樹は私がこうして席を外した時は、いつも笑って待ってくれていた。
顔を見ればわかるのかもしれない。瑞樹はもう知っているのだ。私がまた戻ってくるときには、また私が自分を取り戻していることを。

「うん。ありがと」

私はためらいがちにお礼を伝えながら、カフェの椅子に再び座った。

座りなおして顔を上げると、瑞樹と目があった。瑞樹が少し首をかしげる。それがかわいらしくて、私はなんてことのないそんな仕草に、また笑ってしまうのだった。

「ようやく笑ってくれた。」

瑞樹が言う。瑞樹の声は低くて、安心する。なぜ男の人の声の低い声は安心するのだろう。

そんなことを思いながら、また瑞樹の顔を見た。

私は、瑞樹のことが、好きだ。

ブラック企業に勤めてるんだが頑張るブログ

一年前の、こんな記事を発掘した。
ちょうど一年前。これは、人生でもっとも重要な転機の1つだった。

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2011/09/26

「10月からすべてが始まる」
カテゴリ:お仕事の話


「…やばっ」

時計を見上げて思わずつぶやく。幸か不幸か、このつぶやきを聞く人はこのフロアにはいない。

終電10分前。駅まで8分ほどだから、もう出ないと終電に乗り過ごす羽目になる。
ダッシュで複合機に走り、翌日の資料を印刷する。

資料が出るまでの間に帰ってからのタスクを考える。
スーパー・・・はこの時間はもう遅いからコンビニか・・・。
それを軽めに食べて、それで風呂入って寝る。
そして朝になればスーツに着替えて会社に出る。

会社と家の往復。そんな生活。

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こんなんじゃダメだな、人間が腐る、と思い、踏み出したのがあるNPOだった。
子供と共に成長するNPO。子供と一緒に本気で遊び、遊びの中から成長を見出そうというNPOだった。

子供なんて、正直接点なかった。親戚にも小さい子はいなかったし。
おぼろげな小中学校の記憶をたどりながら、接している。
野外活動に3回ほど参加したのだけれど、まったくつかめない…。
どうしたものやら。

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ところで、私はモノを書くのが趣味だ。いまのところ、何か物語を書くまでにはいたってなくて、ブログのこやしにするだけの趣味だ。

単なる趣味だったのだが、世の中にはこれを伸ばす世界があると、ある時知った。編集学校というやつだ。
どうも、聞けば本気の文章をやる人だけでなく、考え方も「編集」してしまおうというのがこの編集学校の趣旨らしい。
なるほどな、と思い、参加してみた。

オンラインで課題が送られて来、それに対して回答を返信すると、その教室ごとの「師範代」から回答が送られてくるシステム。
これがわりと時間を取られる。多彩な課題が網羅されており、自分が得意な分野や不得意な分野、さまざまなところから課題が出されるもんだから、進まない、進まない。
仕事と折り合いつけながらようやく回答をすべて返し終えたのが、2週間ほど前のこと。

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ある日、メールが送られてきた。

「12月のプロジェクトやりませんか!?」

例のNPOのメンバーからだった。プロジェクト。この組織では月に1回のペースで子供たちと遊ぶ企画を起こしている。
この企画に関わらないか、というお誘いがこのメールだった。

迷った。
なにせ、子供とのふれあいは不得手だ。そんななのに、プロジェクトを企画する側に回ってよいものだろうか。
しかも、平日にミーティングを行ったりする。メンバーは大学生だったりもするので、そのへんはお仕事との折り合いをつけなくてはならないだろう。
誘ってくれた人も、「時間取られるとおもうけど」とメールに書いている。ただでさえ、家に帰って自由な時間などないに等しいのに、大丈夫だろうかと、迷った。

迷い迷って――、僕はそれに参加すると返事した。

その瞬間、僕は12月下旬まで、会社のやりくりつけて全力で走り切らなければならないことが、決まった。

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2週間前に回答を返し終わり、1週間前にそれを祝うイベントがあった。編集学校のほうだ。

終わったのは1段階目。次に進むか進まぬかと問われて僕はこう答えた。

「半年後、次に進みます。」

例のNPOを頭において、僕はそう言った。時間を取られるNPOの活動。編集学校は半期に一回開かれる。今期を逃しても次がある。

そこに師範代が口を挟んだ。

「そんくらい回せるよ。教わる側やし。」

そうなのだ。師範代は、教える側。それも10人弱の生徒に対して的確な回答を返さねばならぬをこなした、猛者。

たしかにこの人は凄いと思うが、自分にできぬものだろうか。
仕事とNPOと趣味の物書き。3つ、回せぬものだろうか。

そもそも、自分は本気で物事に取り組んできたのだろうか…?
仕事は無駄なことがないと言い切れるだろうか…?

次を決めていた私は、またここで迷うことになった。

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松下幸之助が、たしか「1%のコストを削減しろと言われるより、10%削減しろと言われる方が嬉しい」と言っていた気がする。1%だと、表面的なことでコスト削減に対処してしまいがちだが、10%だと小手先のことが通じない。抜本的に見直すほかなく、そういった無茶な要求のほうが自分や会社を成長させる、という趣旨だったように思う。

私はそれに賭けようと思う。
正直、時間的に無茶なのだが、この3つ、本気で取り組んでみようと、思った。

そうして私は、結局、仕事とNPOと物書きと、すべてを始めることになった。
NPOは10月~12月まで。
物書きも10月~1月まで。


つまり、この3ヶ月が勝負だ。

ああ、考えただけでドキドキする。果たして自分はすべてを回せるのだろうか。
しかし同時にワクワクもしていた。どうやったらこの無茶な仕事を回せるのだろう…?どんな工夫が必要なのだろうか…?


このブログは、そんな頑張りブログです。

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結果から言うと、その両立はよくできた。
若干、泣きそうになりながらも、結果、すべてを全うすることができた。

まあ、このブログは一記事だけ書いて挫折市たみたいでしたが(笑

無題E-1

小学生くらいの子が草原に青く茂る大木の下に立っていた。
背はそのくらいなのだが、その辺の小学生とは何かが違っていた。ずいぶんと堂々としている。いや、堂々としているというのも違う。子供のような未知の"世界"に対するおびえがなく、むしろこの世界を支配する側のような風格さえあった。
僕が不穏な気持ちに表情を硬くすると、少年はにぱっと笑った。快活を全身で表したような笑顔だった。
 
「お兄さん、ここ初めてだろ? 案内してあげるよ。」
  
 
 
 
 
「はい。」

彼がポケットから出したのは小さなカプセルだった。昔のパズルゲームで見たような色をしている。

「それ、飲んで」

僕はそれを日にかざした。TC…Ip80。薬を示す記号だろうか?
僕はそれをえいやと一思いに飲み込んだ。

  
突然、世界が変革した。
 
 
ごう、一陣の風が吹いた。いや一陣どころではなかった。正面から瀑布のように風が押し寄せた。

「…くっ…!」

両手で風をさえぎり、ようやく薄目を開ける。なんとか押し流されずに立っていられるようだ。あたりは一変していた。草原も大木も消失していた。

・・・少年は?

必死の思いで少年を探すべくあたりを見回すと、少年はこの風の中、変わらず笑みをたたえたまま立っていた。
 
「もー、早く慣れなよ。」
 
気づくと、風がずいぶん弱まっていた。
 
「・・・あれ。」
 
だが景色がおかしい。腕を下ろすと、普通に立っていられるようになった。いまや肌をなぜる風はそよ風のようだ。だが景色は変わらず暴風の中にあった。
 
「おまえ、これ、アッパー系じゃないだろうな…?」
 
「…ははは、まさか。もっといいものだよ」
 
少年はわざとらしいウィンクをして、大丈夫さ、とジェスチャーした。

はぁ、とため息をつく。毒気が抜かれる。少年にいいように乗せられているような気がするが仕方がない。ここまで来たからには彼に従うしかないのだ。
 
「じゃあ、そろそろ行こうか」
 
少年は風の吹くほうへ向かって歩き出した。
 
「どこ行くんだよ」
 
俺は不安になって少年に問う。少年はくるりと振り返って答えた。
 
「キミの見たい世界を。」
 

--

「なんだよ、飛べたりしないのかよ。」

「乗ってきたね。でもここは見てのとおり逆に流れてるからね。本当はこの風に乗っていければいいんだけど、僕らは逆行してるから。」

「逆行?」

「そう。ここでは上りと下りが決まってるからね。」

望まれなかった結末

 
 
そう、誰も――、
こんな結末は望んじゃいなかった。
 
 

無題C-3

その1:
http://straycat.s101.xrea.com/blog/diary.cgi?no=19
その2:
http://straycat.s101.xrea.com/blog/diary.cgi?no=22

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――かつて、それは水のように透き通っていた。
 
最初は小さな小さな球体。
小さいけれどもしかし、はち切れそうにたくさんのものが、その中に詰まっていた。
 
可能性。
 
人はそれをそう呼ぶ。

ひとつひとつは本当に小さかったかもしれないけれど、大人たちから見ると、それは本当にまぶしいほどに光り輝いていた。
それらはやがて形作られることを夢見る、無限の可能性を持つ球体だった。

それは水の星・地球のように、どこまでも青く、未来そのものだった。

 
-- 
 

オトナになると、輝きはだんだん失われていく。

「正義の味方には、なれなかった。」

「歌手には、なれそうもない。」

「頭が悪いから、医者は無理だな。」

「海外で暮らしたかったなぁ。」

「あのとき、こうしていれば。」

ひとつ、またひとつと可能性は輝きを失っていった。
幼い頃のいくつもの夢が泥に沈み、夢見た未来がまたひとつ黒く塗りつぶされた。

 
そうして、年経るごとに球体は黒く暗く昏くなり、膨らんだ希望に裏切られた分だけ膨張していった。

 
 どぷん。
 

青い星はいつしか泥に沈み、なお黒い汚泥を生み出した。ごぽごぽと止めどなく溢れ出すそれに辺り一面が染まる。もとは球体だったものは、内から溢れ出すそれに沈殿し、いつしかどこにあるやらわからなくなってしまった。


「・・・これが、俺の『未来』。」

黒い泥の海を見下ろしながら、絞り出すように呻いた。
きらきらと輝いていたはずの未来は、諦観、失望、無念、嫉妬、後悔、逃避、それらにがんじがらめにされておぞましいほどに変わり果てていた。

無題C-2

その1:
http://straycat.s101.xrea.com/blog/diary.cgi?no=19

--

黒い球体はぐずぐずと溶けた。
あとにはコールタールのように黒くてどろりとした液体が両の手に残った。

 
掬おうとしてもカタチの無い、不安――。
 

それが球体の正体だった。その「カタチのない不安」こそが、俺の内面に澱のように沈殿し、穢していた。思い返せば、しばらく前から排出されることなく溜まる一方だったようにも思う。

 
「・・・ねぇ、顔色悪いよ? 大丈夫?」
 

はっとして顔を上げた。
目の前の彼女は心配そうに俺のことを見ている。
あああ、こんなはずじゃなかったのに。結局俺は彼女に心配ばかりをかけている。

「なんか顔色、黒くなってない…? 本当に大丈夫?」

黒、か。
 
俺の未来みたいだ
 
そう思った。

そして、気づいた。黒い球体の正体。それが掬うことができず、どろりと溶けた理由。それってつまり、俺の未来そのものじゃないのか――
 
 
 

--
[タグ:チラシの裏]

無題A-003

僕は彼女にマウントポジションを取られ、首を絞められている。

彼女は本気だ。

目がヤバい。今度の今度こそ殺される、そう思った。

「…なんて、」

目の狂気は納めないまま、彼女は手を少し緩めた。
「アンタを苦しめるためにこんなコトしたって無駄かもね。」
「ゲホッ、ゲホッ。」
僕は急に入ってきた空気に咳き込んだ。
「だってアンタは――、」
彼女は再び手に力を込めた。

 
 
「死にたがってる。」
 
 
 
 

その言葉を聞いたとき、僕は心臓が止まるかと思った。
狂気を帯びたその目は、まっすぐに僕を射抜いていた。
僕の、僕さえも知らない芯を。

 
「だって、そうだ。どうせアタシの力じゃアンタの首はへし折れない。でなきゃそのへらへら顔を浮かべてなんかいられない。
 やっとだよ、やっと。アンタがリスみたいな怯えた顔を見せたのは!」
 

彼女が口の片端だけを上げて嗤っているように見えたが、僕はもう自分のことで精一杯で彼女の様子を見ている余裕はなくなってしまった。

 
僕が、死にたがり…?
 

考えたこともなかった。彼女の言うとおり、僕はのうのうと人生を生きてきた。それも、他人に殺されそうになるくらいに。
それでも、死ぬのは怖かった。いざ、「あんた、明日死ぬよ」と言われれば泣いて命乞いをしただろう。たとえ生きる意味のない人生だとしても。

しかしその一方で、生きることに冷めた自分がいた。

「おまえ、本当に生きたいのかよ。おまえに生きる意味なんて無いのに?」

今の生活は恵まれていると思っている。こんなダメな僕でも仕事に就け、衣食住に不満はない。不満はないが、生きる目的も無かった。
 
「いいんじゃん?意味ないんだったら頑張って生きなくても。」
 
その通りだった。外の世界はストレスに満ちている。ちょっとした嬉しいこともあるけれど、辛いことも多かった。
 
(…なんのために、頑張っているんだろう…?)
 
辛いことに直面するたびにそう思った。辛いことは乗り越えなくちゃいけない。そのために過去は必死に忘れようとした。そうして、ああ、今日も一日終えることができた、と嘆息するのだ。毎日、ストレスに耐え、それを忘れられるよう頑張って生きた。

 
今日を生き抜くために早く今日が終わることだけを考えていた。
明日になれば辛い今日のことは忘れようと努めた。
昨日を過去に閉じこめ、思い出さないように固く封をした。
 

過去を持たない僕に、生きた足跡である『人生』など有るはずもなかった。
有るのはただ、時間としての未来だけ。t が今より大きいだけの、不確定な、1秒待てば向こうからやってくる世界だった。

そんな未来に、希望など持てるはずがなかった。
毎日頑張って迎える未来には何があるのか。
僕は答えを知っている。

 
 『死』だ。
 

僕は毎日死ぬために生きている。死ぬ日を心待ちにしながら生きている。
死んでやっと、「ああ、ストレスから解放された」と嘆息して死んでいくのだ。ストレスから解放されることだけを願い、それを叶えて死んでいく。僕の人生は、それだけであるように思えた。


「やっと、気づいた…? 自分が死にたがりってことに。」
僕は意識を少女に向けた。少女は未だ僕の首を締め付けている。彼女は僕を殺そうとしている。なのに、呼びかけられた声は優しささえ含んでいるように思えた。

「受け入れなさい? アンタはここで死ぬの。死ぬ勇気もないアンタに代わって私が終止符打ってあげるわ。感謝しなさい…!」

ぐっ、と彼女が力を込めた。
「………!」
ついに彼女の手は頸動脈の血流を完全に止めた。頭が痺れていくのがわかる。顔に濁った血が溜まっていく。酸素も吸えない。口はパクパクと酸素を求めるが彼女の手がそれを許さない。意識など、一瞬でも気を抜けばダウンするのは明白だった。


 
…これが死か。
 

朦朧とする頭をひとつの言葉が駆け抜けた。これが死なのだ。“死にたがり”の自分が求めていた、ひとつの答えのはずだった。

つ、と不意に涙した。

死を本気で意識した途端、勝手に涙がほおを伝った。
願い願ったはずの死を前にして、その意味を知った。
自分が今までしてきたこと。
自分の生きた意味。
自分が嬉しかったこと、哀しかったこと。
自分を世話してくれた人。
そしてこれ以降の自分。
それら全てが、『無』に消える。それが死だった。

ただただ、悔しかった。

他人が尽くしてくれたことを、『無』にしてしまう自分が悔しかった。

無題C

「最近、元気?」
テーブルを挟んで彼女が聞いた。

「えー、元気やで?」
そう、答えるはずだった。彼女に心配をかけるわけにはいかない。こんな自分よりも彼女の方がつらいはずだ。だから彼女に比べれば自分なんて全然元気で、笑顔さえ浮かべてその台詞を読み上げるはずだったのだが、開いた口は途中で真実を探してしまった。

「えー、元気、・・・・・・やで?」

元気、と言いかけたところでバカ正直なこの体は嘘をつくことに拒絶反応を示した。違う、俺は元気なんかじゃない。体はそう主張した。

頭はそれを否定する。
どこに元気を否定する要素がある?彼女は自分以上に仕事をこなしているにもかかわらず元気じゃないか。それに引き替え君はどうだ。サボってばかりでまったく仕事をしていなくてどこに元気を失う要素があるというのだ?有給を取って休んだばかりで体力も問題なし、食欲もあるじゃないか。元気でない理由がこれっぽっちも見あたらない。

体はその理由を見つけ出そうと視線を彷徨わせた。視線がぐるりと自身の内面を向いた。
暗い、空間。人型に空いた暗い空間がそこにあった。目をつぶった時と同じ程に暗い空間。
世界の半分は黒い液体が詰まっていた。光をほとんど反射せず、深さがどれほどあるのか検討もつかない。ちゃぷん、と液体が音をたてる。もし手を差し入れれば、黒い液体は手にまとわりついて離れようとしない気がした。

これは何のイメージだろう。血液?体内の水分?それにしてはずいぶんと黒い。そして粘度を帯びている。こんなに黒いモノが俺の体内を流れているのだろうか。

その液体の中に何かあることに、気づいた。
沼のような黒い液体の中に手を差し入れる。「何か」はすぐに手に触れた。

それは球体だった。

不安定なカタチをした球体。液体と同じ色をしていた。球体を取り出すと液体がゆっくりと滴り落ちた。
これこそが、俺が不安に思っているモノだ。これがあるせいで、俺は元気になれない。元気であると胸を張って彼女に伝えることができない。

なんなのだ、これは。この球体は何なのだ?

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[タグ:チラシの裏]

無題 - 0501

早く、早く!


針の捩れた時計を持った白ウサギに急かされる。
もう時間がない。早くしないと。

その一方で、俺の体は鉛のように重くなってきていた。


「…くそっ」


もっと、早く、速く、疾く、捷く…!!


呪いかまじないか、呟けば呟くほどに視界が狭まっていく。きゅう、と網膜が音を立てて縮む。アドレナリンがさっきから無駄に放出される。ああ、ここはアドレナリンが必要な場所じゃないってのに…!

言っている間にタイムリミットは刻々と近づいていた。


ああ、くそっ。
あと少しなのに、どうしてその一歩がっ…!!
 
 
 
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[タグ:物書き、チラ裏以下]

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