足を洗った。
それはもう、綺麗さっぱり。
少なくとも心意気はそのつもりだった。
一番大きかったのは、時間がそれを許さなかったこと。
結局の所、空白の時間を満たすための行為であったそれであったので、その空白が亡くなった結果、意欲的に求める必要はなくなったのだ。
だから、私はその世界から足を洗った。
・・・そう思って、いた。
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縁は異なもの、という。
人の縁とは不思議なもので、切れたと思ってもまた偶然に繋がる縁もある。長く続くと思ったはずが不意に切れる縁もある。
モノもまた同様。
切れたと思った縁が、不意に繋がる。
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類は友を呼ぶ、という。
また、持つべきものは友、という。
吉報は得てして、自ら探し求めるのではなく友人からもたらされることの方が多い。
とくに趣味の合う友人を持つと最強だ。同じ趣味に関する情報が集まり、その趣味はより充実するだろう。
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そうして私はパンドラの箱を開けた。
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パンドラの箱。
開けるべきでなかったその箱は、私の友人からもたらされたものだ。
趣味を暴露したところ、これは良いものだから、と持たされた。
きのこだった。
ああ、と思った。あああ、と思った。
足を洗ったのだ。きのこが描き出す、境界と魔術と吸血鬼の跋扈する幻想の世界からは足を洗ったのだ。
だが、この手元には、幻想の世界へ誘う3種のきのこ・・・。
パンドラの箱は、開かれた。
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話は、実はさほど難しくない。
依存性があるからきのこは足を洗うべきもので、その依存性に打ち勝つだけの気合いと気力があるのならば、少し囓るくらい何の問題もないのだ。
そう思って、封を開ける。
そうしてそれこそが、パンドラの箱の本懐であったと知る。
トレイに銀色の円盤を載せる。
収納させるとすぐに映像は開始された。
嫌な予感はしたのだ。
円盤は2枚セットだった。
だが1枚は映像のみがセットされ、一枚には音楽のみがセットされていた。
サウンドトラック。
サウンドのみを切り出したディスク。
サウンドトラックになるに値するアーティストは限られている。
そうしてキャストを見ながら、彼女だったら死ねるなー、と思った。
そうして、その文字が目に入った。
・・・そのとき夕飯をしていなかったことを、本当に感謝した。そうして誰もいなかったことを。
盛大に吹き出した私は、モニタをぬぐいながら予感が当たったことを後悔していた。
この組み合わせ。キノコに、この音楽、xxplex。
それは私を屠るのに十分すぎ、私はパンドラが様々な厄災が飛び出すのを呆然と眺めていたときの顔そのままだったに違いなかった。
もう、止められない。
慌てて箱を閉めたところで、すべては出てしまったあとなのだ。
止められないのならば、ポジティブに考えるしか、逃げ道はない。
そうして私はDVDの再生ボタンに手をかけた。
まずは、そう、すべてはこれから始まった。
「空の