「最近、元気?」
テーブルを挟んで彼女が聞いた。
「えー、元気やで?」
そう、答えるはずだった。彼女に心配をかけるわけにはいかない。こんな自分よりも彼女の方がつらいはずだ。だから彼女に比べれば自分なんて全然元気で、笑顔さえ浮かべてその台詞を読み上げるはずだったのだが、開いた口は途中で真実を探してしまった。
「えー、元気、・・・・・・やで?」
元気、と言いかけたところでバカ正直なこの体は嘘をつくことに拒絶反応を示した。違う、俺は元気なんかじゃない。体はそう主張した。
頭はそれを否定する。
どこに元気を否定する要素がある?彼女は自分以上に仕事をこなしているにもかかわらず元気じゃないか。それに引き替え君はどうだ。サボってばかりでまったく仕事をしていなくてどこに元気を失う要素があるというのだ?有給を取って休んだばかりで体力も問題なし、食欲もあるじゃないか。元気でない理由がこれっぽっちも見あたらない。
体はその理由を見つけ出そうと視線を彷徨わせた。視線がぐるりと自身の内面を向いた。
暗い、空間。人型に空いた暗い空間がそこにあった。目をつぶった時と同じ程に暗い空間。
世界の半分は黒い液体が詰まっていた。光をほとんど反射せず、深さがどれほどあるのか検討もつかない。ちゃぷん、と液体が音をたてる。もし手を差し入れれば、黒い液体は手にまとわりついて離れようとしない気がした。
これは何のイメージだろう。血液?体内の水分?それにしてはずいぶんと黒い。そして粘度を帯びている。こんなに黒いモノが俺の体内を流れているのだろうか。
その液体の中に何かあることに、気づいた。
沼のような黒い液体の中に手を差し入れる。「何か」はすぐに手に触れた。
それは球体だった。
不安定なカタチをした球体。液体と同じ色をしていた。球体を取り出すと液体がゆっくりと滴り落ちた。
これこそが、俺が不安に思っているモノだ。これがあるせいで、俺は元気になれない。元気であると胸を張って彼女に伝えることができない。
なんなのだ、これは。この球体は何なのだ?
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財布 コーチ - 2013/08/30 (金) 13:06 Edit
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